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〜おまんの鏡岩〜(小俣地区) |
(山北町教育委員会:平成8年3月1日発行
「さんぽくの昔話」第3集より抜粋) |
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芦谷に 助蔵どんと いう 大(お)っきだ 船持ぢ あって
おまんという めんこい むすめ いだけどや。 |
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芦谷に 助蔵どんという 大きな 船もちの 家があって、
おまんという かわいい むすめが おったと。 |
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なに不自由のない くらし していだども ある年 助蔵どんの
船は、 大しけに あってなんぱ(※1) したけど。 |
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なに不自由のない くらしを していたのだが ある年 助蔵どんの
船は 大しけにあって こわれてしまったそうだ。 |
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おまんは、杉平(すぎのでぇ)(※2)の
親方(おやがだ)(※3)の 家に
やどい奉公に行(え)がせられたけど。 |
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{それで}おまんは 杉平(すぎたいら)の
{村一ばんの金もちの}親方(おやかた) という家に、
すみこみの奉公人(ほうこうにん)に やらされたそうだ。 |
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きりょうよしで はだらぎもんだあんで
「おまん、 おまん。」
てで みんなに めんごがられだけど。 |
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きりょうよしで はたらきものなので、
「おまん、 おまん。」と、
みんなから かわいがられたと。 |
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そのころ 小俣(おまだ)の 源左衛門の おんじで
杉平の 大工の家に 弟子入り してだ
源四郎 ででいう 若衆(わかぜ)が いだけどや。 |
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そのころ 小俣(おまた)の 源左衛門(げんざえもん)の 子で
杉平の 大工の家に 弟子入り していた
源四郎(げんしろう)という 若者が いたそうだよ。 |
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おまんは 山がら
グリミキ(※4)だの
スモモだの もいで来て 源四郎に くれるけど。 |
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おまんは 山から
{おいしい延齢草(えんれいそう)の実の}グリミキだの
スモモだのを 取って来て 源四郎に あげたと。 |
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源四郎は 大工ださげ 桐下駄 うって
おまんに とどけだけどや。 |
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源四郎は 大工なので 桐の木の 下駄を こしらえて
おまんに とどけた そうだ。 |
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| ふたりは だんだん おもしゅう(※5) なったけど。 |
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二人は だんだん すき合って いったんだと。 |
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そのうぢ ゆき 振ってきて、 年夜(としや)の晩に
年季(※6) あげで、源四郎は
小俣へ 帰っていったど。 |
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そのうちに 雪が 降ってきて、 大みそかの 晩に
{いちにん前に なって}弟子の つとめを おえた 源四郎は
小俣へ かえって 行ったと。 |
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春 なって、桃の花咲ぐころ おまんは
こっそり 源四郎のわどご 行って |
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春になって 桃の花の 咲くころ、 おまんは
こっそり 源四郎の ところへ {会いに}行って、 |
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「冬じゅう 会わいねあんで
さびしけ さびしけ。」 |
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「冬のあいだ 会わなかったので
さびしかったよ さびしかったよ。」 |
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それがら おまんは 毎ばん 毎ばん 源四郎わどげ
通うように なったけどや。 |
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それから おまんは 毎ばん 毎ばん 源四郎の ところへ
通うように なったということだよ。 |
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りこうだ おまんは、 白装束(※7)して
かみは さんばらに ふりみだして 頭にゃ糸とりわぐに
ろうそぐ三本 とぼして、 口にゃ くし くわいで
魔ものの すがだして通うあんだけど。 |
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りこうな おまんは 白い着物を 着て
かみは ざんばらに ふりみだして、 頭には 糸とりわくに
ろうそく三本ともして 口には くしを くわえて
魔ものの すがたをして 通うのであったと。 |
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小俣の 笊の淵まで 来っと 大きい岩の上に
鏡 たでで かみ なおして、着物 着がえで
源四郎わ どけ 来るあんだけど。 |
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小俣の 笊(ざる)の淵まで 来ると 大きい 岩の上に
鏡を 立てて かみを なおして 着物を 着がえて
源四郎の家の ところへ 来るので あったと。 |
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そうしたば、
「小俣の浜道(はまみぢ)にゃ 化けもん 出る。」
でで、ひょうばんに なったけど。 |
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すると、
「小俣の 浜の方へ 出る 道には 化けものが出る。」
と ひょうばんに なったそうだ。 |
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| このごど 杉平の 親方 聞きつけで、 |
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このことを 杉平の 親方が 聞きつけて、 |
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「よその むすめ あずかって きずもんにしては
ならねい。」 |
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「よその むすめを あずかって もしものことが
あっては ならない。」 |
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| でで おまんなこと ひま くれだけど。 |
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と、 おまんに ひまを くれたと。 |
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芦谷に 帰った おまんは、源四郎わごど
こいしゅうで こいしゅうで こんどは、芦谷がら 通うあんだけど。 |
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芦谷に 帰った おまんは、 源四郎のことが
こいしくて こいしくて こんどは 芦谷から 通うので あったと。 |
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| そうしば 小俣の むすめだぢゃ |
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そうしたら 小俣の むすめたちが、 |
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「芦谷の おまんが なんぼ きりょうよし でも 源四郎わごとは
わださんにゃ わださんにゃ。」 |
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「芦谷の おまんが なんぼ きりょうよしでも、 源四郎のことは わたされない わたされない。」 |
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| でで りんき(※8) したど。 |
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と やきもち やいたと。 |
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この話 聞いだ おまんは、
「だいじだ 源四郎どは いっしょに ならんね。」
でで 岩の上がら 笊のう淵 身 なげだけど。 |
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この話を 聞いた おまんは、
「だいすきな 源四郎とは けっこん できない。」
と 岩の上から 笊の淵へ 身なげしたと。 |
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お月さまは、 おまんの 白装束を さびしょで
てらして いだけどや。 |
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お月さまは おまんの 白い着物を さびしくて さびしくて
てらして いたそうだよ。 |
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| 今でも この岩ごど 「おまんの 鏡岩」 でで 呼んでいんざい。 |
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今でも この岩のことを、 「おまんの鏡岩」って 呼んでいるよ。 |
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小俣の むすめだぢゃ りんきしたごど
盆唄に 歌(う)どでいんざい。 |
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小俣の むすめたちは やきもち やいたことを
盆歌(ぼんうた)にも うたっているよ。 |
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小俣 笊の淵や 昼でも すごい
芦谷 おまんの がぎゃ 夜 通うだ |
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小俣 笊の淵は 昼でも すごい
芦谷 おまんの 餓鬼(ガキ)ゃ 夜 通うた |
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方
言
の
意
味 |
| ※1 なんぱ ==== 暴風雨などで船がひどく壊れること。 |
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| ※2 杉平 ===== 地名・もと「すぎのだい」、今「すぎだいら」という。 |
| ※3 親方 ===== 村いちばんの実力者。ざいさん家。 |
| ※4 グリミキ === エンレイソウの実。直径1.5センチ位。おいしい。 |
| ※5 おもしゅうなる = 面白くなる。ここでは、好きになる。 |
| ※6 年季 ===== 弟子入りしなければならない年限。 |
| ※7 白装束 ==== まっ白い着物。ぜんぶが白いよそおい。 |
| ※8 りんき ===== 男女のやきもち。しっと。 |
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